最低賃金の確認!複数の都道府県に事業場があるときの注意点

県境を超えても、同じ生活圏であるという場合は少なくないと思います。私の営業エリアである兵庫県の阪神地域、大阪府北摂地域に複数の事業場を有する会社からも、大阪府と兵庫県で最低賃金が違い過ぎて、従業員のモチベーションに影響しているという話を聴くと、なかなか難しい問題だと感じるところです。今回は、複数の都道府県に事業場があるときの最低賃金の確認について説明します。

最低賃金には

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。

地域別最低賃金

地域別最低賃金を決定する場合には、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性にも配慮することとなります。具体的な金額は、都道府県ごとに決定されます。地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として、各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。

なお、地域別最低賃金は、

  1. 労働者の生計費
  2. 労働者の賃金
  3. 通常の事業の賃金支払能力

を総合的に勘案して定めるものとされており、労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされています(最低賃金法第9条)。

特定最低賃金

一方、特定最低賃金とは、特定の産業について設定されている最低賃金であり適用対象となる労働者等がそれぞれ詳細に定められています。地域別最低賃金と両方に該当する場合は高い方が優先されます(最低賃金法第6条)。

事業場の定義

事業場の定義として、行政通達(平成11年3月31日基発168号)によると、事業の適用単位は次のように考えられている。

  1. 事業の名称又は経営主体等に関係なく、相関連して一体をなす労働の態様によって事業としての運用を決定する。
  2. 一の事業であるかどうかは、主として同一の場所かどうかで決まる。原則として同一の場所にあるものは一個の事業とし、場所的に分散しているものは別個の事業とする。

事業場の定義の例外

  • 同一の場所にあっても労働の態様が著しく異なる部門(工場内の診療所、食堂等)がある場合に、その部門が主たる部門との関連において従事労働者、労務管理等が明確に区分され、かつ、主たる部門と切り離すことによって方がより適切に運用できる場合は、それぞれ別個の事業とする。
  • 場所的に分散している事業であっても、出張所、支所等著しく小規模であり独立性のないもの(新聞社の通信部等)は、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱う。

最低賃金額が異なる2つの県に事業場がある場合

上記の事業所の原則に照らすと、本社がA県(最低賃金800円)で、勤務地がA県とB県(最低賃金850円)の複数存在する場合、A県の勤務地で働く労働者にはA県の最低賃金が適用されますが、B県の勤務地で働く労働者には850円が適用されます。しかし、小規模であり独立性のない勤務地であれば、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱うとしていますのでB県で働く人もA県の最低賃金が適用されることになります。この場合の考え方は、複数の最低賃金の適用を受ける場合は高い方が優先されます(最低賃金法第6条)ので、やはり最低賃金が高いB県で適用をうけることになります。本社がB県にある場合、勤務地がA県の労働者にはA県とB県の最低賃金の適用をうけることになりますので、上記の最低賃金法第6条に従い、最低賃金が高いB県で適用をうけることになります。

最低賃金が異なる県へ人事異動した場合の賃金

本社がA県で勤務地もA県の人はA県の最低賃金の適用を受けていますが、勤務地がA県(最低賃金800円)からB県(最低賃金850円)へ人事異動した場合、その人の業務内容がA県で行っていたときと全く変わらなくても、賃金をB県の最低賃金以上にしなければなりません。この場合賃金が増額するのであまり問題にならないと思われますが、問題は逆の場合です。業務内容が全く変わらないのに、最低賃金が低い県に異動したことにより、賃金が減額されるということになりますので、労働者のモチベーション低下やトラブルになる可能性があると考えられます。そこで、最低賃金に近い金額の賃金が設定されている労働者であっても、事業所間の人事異動が有り得る場合には、その会社の事業所で一番低い額の最低賃金を基本給として、地域手当や地域加算などの名目でそれぞれの都道府県の最低賃金以上になるように調整する方法があると考えられます。しかし、同じ仕事をしていて、同じ生活圏であるにもかかわらず、県境を越えるだけで、月に数千円~1万円近く給料が変わるということには、労働者の納得が得られないのではないでしょうか?これ以上の判断はそれぞれの経営者の考え方によると思います。

最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。

具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。前述の地域手当や地域加算の名目で支払う賃金は最低賃金の対象となります。

  1. 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  2. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  3. 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
  4. 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  5. 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  6. 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

月給制や日給制の場合は時給に換算することになりますが、特に注意して頂きたいのが、固定残業代を支払っている場合です。固定残業代を含めて給与を支払っている場合の計算方法については、別記事「ブラック企業と言われないための固定残業代制度の運用とは?」を参照してください。

罰則

地域別最低賃金額を下回る賃金を支払った場合の罰金の上限額は50万円です。(最低賃金法第4条第1項、第40条)

平成29年度最低賃金発効年月日別 都道府県リスト

地域別最低賃金額の発効年月日(新しい最低賃金額を適用する日)は、下表のとおりです。本日平成29年10月1日に最も発効年月日が集中しています(34都道府県)。最低賃金額は都道府県労働局長が決めて、公示の日から30日経過後又は公示の日から30日経過後で指定する日とされていますので、都道府県によって発効年月日が異なることになります。

発効年月日 都道府県名
平成29年9月30日 大阪
平成29年10月1日 北海道・岩手・宮城・秋田・福島・茨木・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・富山・石川・福井・長野・岐阜・愛知・三重・京都・兵庫・奈良・和歌山・島根・岡山・広島・山口・香川・愛媛・福岡・熊本・大分・鹿児島・沖縄
平成29年10月4日 静岡
平成29年10月5日 滋賀・徳島
平成29年10月6日 青森・山形・鳥取・佐賀・長崎・宮崎
平成29年10月7日 群馬
平成29年10月13日 高知
平成29年10月14日 山梨

むすび

今回は複数の都道府県に事業場がある場合の最低賃金の確認について説明しました。毎年20円~30円の最低賃金額が増額し、特に大都市圏の最低賃金額が他の地方に比べて高額であることから、複数の都道府県に事業場がある会社にとっては総額人件費に与えるインパクトが大きいです。